菜月の居ない世界で

次女 菜月の自死からの記録 菜月の居ない世界

葬儀

<2020年10月17日(土)> 
今日は10:00から葬儀だ。

ルートインに宿泊して初めて1Fの大浴場に入り身を清め向う。
今日は生憎朝から雨だ。昨日までの秋らしい気候から初冬の肌寒い朝だった。
9:30に葬儀場についたら、そのまま駐車場で待機した。
10:00近くになり、光美から連絡がありLINEで式を見れる様にするとの事だ。
どうやら三脚に携帯を固定して祭壇方向が見れるらしい。
式が始まり神主の声が流れる。何が行われてるのか何も解らない。
玉串のお供えの時、式場の方が呼びに来てくれた。
式場に入ると親族は誰も居ない。私と接触しない様にする配慮だ。
玉串を備え終わると、直ぐに式場から出て駐車場にもどる。
画面では引き続き親族の玉串が行われていた。
式は粛々を進む。喪主であり父親である自分は、

駐車場に止められた車の中で
いったい何をしているのだろう。
親族・家族である渡辺の姉と娘、それと妻である光美により除外された父親とは
情けなく・悔しく・悲しい。こんな家庭を作ってしまった自分が情けない。
結局、菜月が逝ってしまった事で皮肉にも家族の真の姿が見えてきてしまった。
式も最後になった。菜月への花のお供えだ。
係りの人が呼びにきた。式場に入る、又、親族は誰も居ない。
菜月に近づき別れの言葉を掛けながら花をお供えする。

枕元に菜月へのメッセージがあった。
昨夜来た友達が残していった物だろう。
菜月の笑顔が好きだった。菜月のことを忘れない。思い出をありがとう。
菜月への思いを込めたメッセージだ。

菜月はこんなにも悲しんでくれる友を持ちながら
それさえも支えにならない苦しみが有ったのだと思うと、また涙が溢れてくる。
神主さんが近寄り声を掛けてくれた。
”こんなに若く、色白で綺麗な子が何で死んでしまったのだろう。お辛いですね。”
私は何も答えず、泣きながら花を供えた。
お供え終わると又、駐車場に戻る様、促され駐車場に戻った。
画面では親族が代わる代わる花をお供えしている。菜月は綺麗に飾られた。

突然、画面に光美が映り画面が切れた。一言あっても良いだろうに。
恐らく式が終わり出棺する時間になったんだろう。
玄関に霊柩車が横付けされる。しばらくして親族と共に菜月が出てきた。
皆に支えられて車に入れられた。
助手席に光美が乗り込む。係りの人が私に近づき、

霊柩車の後に続いて出るように伝えた。
いち早く有香が霊柩車の後ろに車を着けようとするのを、

係りの人が制止し、私に出る様に促す。
私が後方に着くと、霊柩車は長いホーンを鳴らして火葬場に向けて出発した。

火葬場に到着すると台車に載せられ菜月が中に運ばれる。
私は親族達に近づかない様に外に立って中を見守っていた。雨は降り続いている。
親族たちが菜月から離れだした。葬儀場の方が入室促す。
ドアを通り菜月に近づく。菜月は棺桶には蓋がされており、窓は透明な樹脂で菜月には触れない。
玉串を棺桶においた。本当に最後の菜月との別れだ。

美しい菜月を見る事のできる最後だ。
何時までも見ていたい。本当に現実に起こっている事なのか。何度も何度も夢で有って欲しいと。
本当に最後の”ごめんね”を伝え、式場の外にでた。
私が出るのを待って、光美たち親族が同じく菜月と最後の別れをしている。
中での進行は全く解らない。その内、皆が離れる。奥の扉が空き菜月が運ばれる。
正面から右に曲がり、菜月が見えなくなった。
皆がついて行く。私の視界から菜月も親族も消えた室内を見つめていた。
しばらくして、葬儀場の方が火葬の終了予定時間を教えてくれた。
約90分程掛かる。光美達は室内の控え室に向かい。私は駐車場の車に戻る。

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火葬場の屋根を見ると、うっすらと煙が上がってるのが見えた。
雨の天候で濃霧に混じって煙が上がってる。
私は車を降りて、火葬場の全貌が望める高台に傘を持って登った。
屋根に煙突を確認すると煙が登ってる事が確認できた。
菜月が登って行く。もう手を合わせて菜月にさよならを伝えた。

神主さんが火葬場より出てきた。
雨が降っている中、傘をさしてこちらに近づいてくる。
私も傘をさして車よりおりた。
神主さんは”これほど若い女性の葬儀は初めてだった。

遺族の悲しみは創造を絶すると思います。
父親である貴方が家族と同席できない事も本当に悲しい事です。

貴方の思いは皆様にもお伝え
させて頂いてます”と言葉を掛けてくださった。
菜月の前に来る度に泣いていた私を案じてくれたと思う。

予定より少し早く火葬が終わると告げられた。
進行は先ず私が最初に遺骨を納め、退室後に親族が治めると告げられた。
採骨場に入ると菜月が運ばれてきた。
崩れてしまった頭部と骨盤が見える。菜月の面影など何処にもなかった。
私がタイに持っていく為に用意した骨壺をと合わせて、3個の壺になる。
後で聞いたのだが、火葬場の方は我が家のお向かいに住む遠藤さんだった様だ。
遠藤さんが喉仏を指差し、先ずこれを治める様にいわれた。
小さい骨壺に収めた。恐らくこの壺は墓に収めないと思ったからだ。
後は頭部の欠片を順番に収めた。
その後は自分が用意した骨壺とガラス瓶に遺骨と灰を収めて退室した。
親族が採骨を終えるのを待って、私は再度採骨場に向った。
ガラス瓶にもう少し採骨するためだ。採骨場に入って愕然とした。
殆どの遺骨が残っている。骨盤や足は略そのままだ。
骨壺は小さく入れられる遺骨には限りがあるのだ。
葬儀前に母に遺骨を全て持って帰りたい。

容器を用意したいと伝えたが、それは止めた方が良い。
その様に言われ仕方が無いと諦めたが、

残った遺骨の多さにやはり悲しみは隠せなかった。
光美達親族たちは、既に葬儀場への帰路に着いていた。
葬儀場まで行き、葬儀場の方々にお礼を言ってHotelに帰った。
これで葬儀は終わった。
Hotelに帰り机に置いた菜月の遺骨を見て 声を上げて泣いた。
胸が押しつぶされそうだ。苦しい。菜月に会いたい。

一言で良いか菜月の声が聞きたい。